研究活動のご紹介
血液学部門で現在行っている研究
1.血液疾患診療に関する臨床研究
既存の診療データに基づく後方視的コホート研究を基本として、マルコフモデルを用いた費用対効果分析、傾向スコアを用いたマッチング、逆確率重みづけなどの様々な統計学的モデルを活用した研究を行い、若手医師を中心に、数多くの研究成果を国際専門誌に発表しています。そして、その研究結果から得られた臨床的仮説を前方視的臨床試験で検証するという試みを行っています。具体的なテーマとしては造血幹細胞移植の前処置や免疫抑制療法の最適化、白血病やリンパ腫に対する多剤併用化学療法の優劣の比較および予後予測因子の開発などを行っています。さいたま医療センターとの共同研究によって多数例を対象とした研究が可能となっています。新しい統計解析手法を駆使しできるように無料統計ソフトEZRを定期的にアップデートしています。
なお、後方視的研究の場合には現行の倫理指針に沿って、患者さんから直接同意をいただく手順を行ってはいませんが、もしデータの使用に同意されない場合は以下に連絡をくださいましたら幸いです。その場合、研究の対象とはいたしません。また、その場合にも当センターにおける診療?治療の面で不利益を被る事はありません。下記のEメールアドレスにご連絡ください。研究内容の詳細についてはこちらをご覧ください。hematology@jichi.ac.jp
2.異種骨髄移植モデルによる移植片対宿主病(GVHD)の制御の研究
NOGマウス(免疫不全マウス)にヒトの免疫担当細胞を生着させてGVHDを発症させる異種GVHDモデルを活用し、実際のヒトの造血幹細胞移植におけるGVHDを制御することを目標とした研究を行っています。現在は、異種GVHD発症の機序について、抗原提示機構を含めて詳細に解析するとともに、ヒトのGVHDの予防、治療に用いられる薬剤が、異種GVHDモデルにおいてGVHDやGVL効果(ドナー細胞による抗腫瘍効果)に対してどのような影響を与えるかについて解析を進めています。またT細胞代謝の影響についても詳細な解析を進めており、GVHDの予防、治療に役立ちそうな治療薬の候補がみつかっています。
3.遺伝子改変免疫細胞療法の開発研究
2つの遺伝子改変手法を用いた免疫細胞療法の開発を行っています。一つは抗体とT細胞受容体から構成されるキメラ抗原受容体(CAR: chimeric antigen receptor)を遺伝子導入する方法で、この遺伝子を患者T細胞に発現させると、腫瘍細胞表面の標的抗原をHLA非拘束性に認識し、腫瘍細胞を破壊します(CAR-T療法)。既に、CD19やBCMAを標的とするCAR-T療法が臨床応用されていますが、私たちは遺伝子導入T細胞を体外からON/OFFできる制御機構を付加することで安全性、有効性を高める研究を進めています。
もう一つの方法は腫瘍抗原あるいは病原微生物抗原に特異的に反応する細胞傷害性T細胞を単離し、そのT細胞受容体(TCR: T-cell receptor)遺伝子全長を健常ドナーT細胞に遺伝子導入して発現させることによって特異的免疫免疫療法(TCR-T療法)を可能にするという手法です。成人T細胞性白血病?リンパ腫(ATLL)の腫瘍細胞が発現しているTaxに特異的に反応する細胞傷害性T細胞を増幅させて治療に用いる遺伝子導入免疫細胞療法が臨床応用に近づいています。