血液科【アニュアルレポート】
1.スタッフ(2024年4月1日現在)
科長 | (教授) | 神田 善伸 |
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医局長 | (准教授) | 大嶺 謙 |
外来医長 | (講師) | 畑野かおる |
病棟医長 | (助教) | 皆方 大佑 |
医員 | (教授) | 藤原慎一郎(兼) |
大森 司(兼) | ||
(講師) | 佐藤 一也 | |
山本 千裕 | ||
上田 真寿(兼) | ||
(学内講師) | 蘆澤 正弘 | |
(病院助教) | 戸田由美子 | |
(派遣1名) | ||
シニアレジデント | 7名(派遣2名) | |
大学院生 | 1名 |
2.診療科の特徴
北関東における血液疾患診療の数少ない拠点病院として、地域と連携しながら血液疾患全般の診断と治療をおこなっている。世界標準治療の安全な遂行は言うまでもなく、再発?難治性造血器腫瘍に対しても分子標的治療薬や遺伝子細胞治療、造血幹細胞移植を駆使して治療成績の向上に努めている。加えて、新たなエビデンス創出を目指し、数多くの臨床研究を主導的に実施するとともに、多施設共同臨床試験や新薬の開発治験にも積極的に参加している。更に、遺伝子細胞治療を中心とした先端医療の研究開発にも取り組んでいる。
当科の最大の特徴として造血幹細胞移植療法に積極的に取り組んでいる点が挙げられる。移植治療の実績は国内トップクラスであり、本学や近隣の施設ばかりでなく全国からの紹介患者にも広く対応している。血液診療に精通した薬剤師、看護師、検査技師、臨床心理士、理学療法士、栄養士も診療に積極的に参加することにより多面的な患者サポートが可能な体制となっている。
検査部門においてはフローサイトメトリー解析や染色体解析、白血病キメラ遺伝子解析を院内でおこなうことが可能である。造血器腫瘍の診断から治療まで迅速に対応可能な体制が整っている。稀な疾患である、血栓?出血性疾患についてもエキスパートが診療に関わり精密な治療が可能である。
また、造血幹細胞移植の臨床における問題点に立脚した基礎研究をおこなっている。高度免疫不全マウスを用いた移植片対宿主病モデルや白血病モデルを作製し発症のメカニズム解析や治療実験をおこなっている。
認定施設
- 日本血液学会認定研修施設
- 日本輸血細胞治療学会認定教育施設
- 日本造血細胞移植学会認定施設
- 日本臨床腫瘍学会認定研修施設
- 日本がん治療認定医機構認定研修施設
- 日本血栓止血学会認定施設
認定医
日本血液学会専門医 | 11名 |
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日本血液学会指導医 | 10名 |
日本内科学会認定医 | 12名 |
日本内科学会総合内科専門医 | 8名 |
日本内科学会指導医 | 5名 |
日本輸血?細胞治療学会認定医 | 3名 |
日本がん治療認定医 | 2名 |
日本がん治療暫定教育医 | 1名 |
日本造血?免疫細胞療法学会認定医 | 5名 |
日本臨床腫瘍学会暫定指導医 | 1名 |
日本遺伝子細胞療法学会認定医 | 1名 |
日本血栓止血学会認定医 | 1名 |
日本リウマチ学会専門医 | 1名 |
3.診療実績?クリニカルインディケーター
1)新来患者?再来患者数?紹介割合
新来患者数 | 437人 |
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再来患者数 | 14,729人 |
紹介割合 | 94.1% |
2)入院患者数(病名別のべ人数)
病名 | 患者数 |
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急性骨髄性白血病 | 104 |
急性前骨髄性白血病 | 4 |
急性リンパ芽球性白血病 | 36 |
骨髄増殖性疾患 | 2 |
慢性骨髄性白血病(含、急性転化) | 20 |
慢性リンパ球性白血病 | 5 |
成人T細胞性白血病 | 4 |
非ホジキンリンパ腫 | 156 |
ホジキンリンパ腫 | 11 |
多発性骨髄腫 | 85 |
再生不良性貧血 | 14 |
発作性夜間血色素尿症 | 6 |
骨髄異形成症候群 | 17 |
特発性血小板減少性紫斑病 | 12 |
原発性骨髄線維症 | 1 |
アミロイドーシス | 8 |
キャッスルマン病 | 4 |
移植後リンパ増殖性疾患 | 3 |
血友病 | 2 |
造血幹細胞移植ドナー | 27 |
その他 | 12 |
合計 | 533 |
3)手術症例病名別件数
病名 | 人数 |
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骨髄採取術 | 11人 |
末梢血幹細胞採取術 | 51回/43人 |
4)治療成績
急性骨髄性白血病 初回寛解率 | 81.0% |
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急性リンパ球性白血病 初回寛解率 | 90.9% |
5)主な検査?処置数
骨髄穿刺 | 918件 |
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骨髄生検 | 320件 |
染色体分析検査 | 1,000件 |
院内核酸増幅検査 | 146件 |
細胞表面抗原解析 | 1,489件 |
6)キャンサーボード
担当医師の他、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、歯科衛生士が参加する移植患者カンファレンスを毎週月曜日に行っている。
入院診療においては、2022年の入院患者のべ人数は499名に対し、2023年は533名と増加がみられた。外来診療においては94.1%の高い紹介率を維持し、地域医療機関との連携に貢献している。また、4名の日本造血?免疫細胞療法学会の研修を修了した看護師が担当する移植後長期フォローアップ外来を開設している。
急性白血病の初回治療の寛解率は、骨髄性 81.0%、リンパ芽球性 90.9%であり標準的なレベルであるが、同種造血幹細胞移植等の先端治療を組み合わせることによって長期予後がさらに改善している。再生医療等製品であるキメラ抗原受容体遺伝子発現T細胞を用いたがん免疫療法(CAR-T療法)は、厳格な要件の下に施設認定される。当院では、2021年10月に同治療法を導入した。2023年も前年に続き栃木県のみならず、埼玉、群馬、福島など近隣県からの診療依頼があり、同療法の施行件数は年間計18件だった。
2021年6月からは病棟に医療クラークが配置され、医師の業務負担の軽減に貢献している。
地域との医療連携については、栃木県立がんセンター、那須赤十字病院、及び芳賀赤十字病院へ計3名の常勤医師の派遣を継続している。また、新小山市民病院(小山市)、石橋総合病院(下野市)、友愛記念病院(茨城県古河市)には、それぞれ1名の当科OBの血液内科専門医が常勤している。済生会宇都宮病院(宇都宮市)、冨塚メディカルクリニック(宇都宮市)、佐野厚生病院(佐野市)、とちぎメディカルセンターしもつが(栃木市)、古河赤十字病院(茨城県古河市)、筑西メディカルセンター(茨城県筑西市)では、当科の医師が非常勤医として交代で週2?3回の診療を行っている。各施設の常勤医と連携することで、地域における化学法の遂行が可能となっている。以上の取り組みにより、栃木県、茨城県西部、群馬県南東部地域における円滑な血液内科診療が遂行されている。
教育施設として、将来地域を支える医学生、看護学生、研修医の育成に積極的に取り組んでいる。2017年からは看護師特定行為研修も開始し、教育施設として、将来地域を支える医学生、看護学生、研修医の育成に積極的に取り組んでいる。2023年には県内外から4名の末梢留置型中心静脈注射用カテーテル(PICC)挿入研修者を受け入れた。
8件の企業治験、43件の医師主導多施設共同臨床研究が遂行され、先端的医療や研究への積極的な取り組みがなされた。以下に当科で遂行中の企業治験、臨床研究をあげる。
企業治験
- 製品規格に適合しないL ISOCABTAGENE MARALEUCEL を被験者に投与する拡大アクセス試験(EAP)
- フィラデルフィア染色体陰性B前駆細胞性急性リンパ芽球性白血病と新規に診断された高齢成人を対象とした、ブリナツモマブと低強度化学療法の交互投与と標準治療を比較する安全性確認導入期(Safety run-inパート)を伴う第Ⅲ相、ランダム化、比較対照試験(Golden Gate Study)
- MayoステージⅣのALアミロイドーシス患者を対象に、 birtamimab と標準治療を併用時の有効性及び安全性をプラセボと標準治療の併用時と比較する、第Ⅲ相、無作為化、多施設共同、二重盲検、プラセボ対照試験
- 製品規格に適合しない IDECABTAGENE VICLEUCEL を被験者に投与する拡大アクセス試験(EAP)
- 同種造血細胞移植(同種HCT)を受ける急性骨髄性白血病(AML)患者に対する補助療法及び維持療法としての Mocravimod の有効性及び安全性を評価するための前向き、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、多施設共同第Ⅲ相試験
- 製品規格外 Axicabtagene Clioleucel を用いた患者治験のための拡大アクセス試験(EAP)
- Aspergillus属による侵襲性真菌症患者を対象に、olorofim治療の有効性および安全性を、AmBisome治療後に標準治療を実施したときと比較する第3相、評価者盲検、無作為化試験
- 自家幹細胞移植後の奏効が不十分な初発多発性骨髄腫(NDMM)成人患者を対象とした、idecabtagene vicleucel(ide-cel)+ レナリドミド(LEN)維持療法の有効性及び安全性をレナリドミド単独維持療法と比較するランダム化オープンラベル第3相試験(KarMMa-9)
臨床研究
- 血液疾患患者における全身化学療法および放射線照射後の抗ミュラー管ホルモンを用いた妊孕性温存の評価に対する前方視的研究
- JALSG研究参加施設に新たに発生する全ての成人急性リンパ性白血病(Acute LymphoblasticLeukemia)症例を対象とした5年生存率に関する前向き臨床観察研究(JALSG-CS-12)
- PNHレジストリ(発作性夜間ヘモグロビン尿症患者登録)
- 造血幹細胞移植におけるT細胞代謝の解析(検体保存)
- 造血器腫瘍患者を対象にしたHLA 1座不適合非血縁者間骨髄移植における従来型 GVHD予防法と抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリン併用 GVHD予防法の無作為割付比較試験
- 非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の全国調査研究
- 腫瘍微小環境が造血器腫瘍(悪性リンパ腫、多発性骨髄腫)に与える影響の解明
- 非寛解期造血器腫瘍に対するハプロアイデンティカルドナーからの HLA不適合移植後のドナーリンパ球輸注による地固め療法の有効性の検討
- アグレッシブATLの予後に影響する因子について検討する多施設共同前向き観察研究
- 日本成人白血病共同研究グループ(JALSG)参加施設に新たに発生する全急性骨髄性白血病、全骨髄異形成症候群、全慢性骨髄単球性白血病症例を対象とした5年生存率に関する観察研究(前向き臨床観察研究)
- 同種造血幹細胞輸注関連有害事象と移植合併症の相関の前向き臨床観察研究
- ベネトクラクス血中濃度の個体間変動と効果?副作用に関する研究
- 成人T細胞性白血病に対する Tax特異的T細胞受容体遺伝子導入細胞療法の開発
- 再生不良性貧血/骨髄異形成症候群の前方視的症例登録?セントラルレビュー?追跡調査研究?遺伝子研究 【RADDAR-J[26]】
- キザルチニブの投与を予定している同種造血幹細胞移植可能な FLT3-ITD 変異陽性の再発又は難治性急性骨髄性白血病患者の多施設共同前方視的観察研究 Quiche試験
- 再生不良性貧血の症例登録?追跡調査研究
- レナリドミド非耐容の移植非適応多発性骨髄腫に対するイキサゾミブ維持療法における有効性?安全性の評価とドライバー変異?免疫機能の動態解析(IMTIL試験)
- 再発難治性大細胞型B細胞リンパ腫に対する Lisocel(ブレアンジ)治療の多施設共同観察研究(JSCTCART23)
- 急性骨髄性白血病における予後規定因子となる遺伝子変異の探索
- 造血細胞移植および細胞治療の全国調査
- 関東造血幹細胞移植研究グループ(KSGCT)移植患者データベース作成調査研究
- 進行期MDSにおける早期移植の意義について前方視的試験による検討 KSGCT2301(MDSNARUHAYA)
- 二次性骨髄線維症の実態調査
- 同種移植後HBV再活性化およびHBワクチンに対する免疫応答を規定するヒト遺伝因子の検討(PREVENT HBV附随試験)
- アゾール系抗真菌薬および分子標的薬のPK/PD評価
- ホジキンリンパ腫に対する同種移植前後のPD-1阻害薬投与の安全性に関する全国調査
- 同種造血幹細胞移植におけるタクロリムス1日1回投与製剤の有効性および安全性の検討
- 臍帯血移植後のEBウイルス再活性化?再感染の病態解明と予防法?治療法の確立
- 同種造血幹細胞移植後の好中球回復の違いが移植後合併症や予後に与える影響についての検討
- 急性骨髄性白血病地固め治療における高用量キロサイド療法と多剤併用治療の比較
- 多発性骨髄腫に対する自家末梢血幹細胞移植前後のM蛋白減少率が予後に及ぼす影響について(当院の自家移植症例についての後方視的解析)
- 慢性移植片対宿主病における同種抗体?自己抗体の産生機構の解明
- ヒト異種移植片対宿主病モデルを用いた既知及び新規の薬物?細胞療法の評価
- ヒト異種移植片対宿主病モデルを用いたヒト骨髄由来間葉系幹細胞の治療効果と作用機序の検討
- 新規免疫化学療法時代における同種造血幹細胞移植後再発B細胞性急性リンパ性白血病の検討(KSGCT二次研究)
- 本邦におけるPOEMS症候群自家移植症例の長期予後の解析研究(TRUMP二次研究)
- WG13-22_成人T細胞白血病(ATL)に対する同種移植後の予後に移植前モガムリズマブ投与が与える影響に関する研究(TRUMP二次研究)
- CD19特異的キメラ抗原受容体発現Tリンパ球を用いた再発?難治性B細胞性悪性リンパ腫に対する遺伝子治療臨床研究の継続調査
- 固形腫瘍既往が同種移植成績に与える影響の解析(KSGCT二次研究)
- CORBLIN-T(TRUMP二次研究)
- 同種移植後に発症するフサリウム症(TRUMP二次研究)
- 同種造血幹細胞移植後の類洞閉塞症候群に対する Defibrotide の有効性?安全性の検討(TRUMP二次研究)
- 同種移植成績および移植後のHBOC関連癌再発/発症リスクに関する検討(TRUMP二次研究)
4.2024年の目標?事業計画等
4階南病棟の8床、4階西病棟に16床の無菌病床が稼働している。これら病床を効率よく利用し、地域から診療依頼が増加している急性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫に代表される難治性造血器腫瘍に対する化学療法、造血幹細胞移植療法、CAR-T療法を円滑に遂行する。
引き続き、前述の県内基幹三病院へ常勤医派遣を継続する。また、県内外の複数の拠点病院において、当科のスタッフが非常勤医師として血液専門外来を継続することで、適切に機能分化をはかり、地域に円滑な医療を提供する。
新規治療薬、及び新規治療法の研究開発に積極的に参加し、医療法医療技術の向上に貢献しアカデミア関連病院としての役割を果たす。また、近年の社会的課題である医療経済問題や働き方改革にも留意しながら最善の医療を提供するように務めていく。