小児耳鼻咽喉科【アニュアルレポート】
1.スタッフ(2024年4月1日現在)
科長(教授) | 伊藤 真人 |
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助教 | 野田 昌生 |
2.診療科の特徴
1)小児耳鼻咽喉科の特徴
小児耳鼻咽喉科学の発祥の地は旧東ヨーロッパで、その歴史は耳鼻咽喉科全般が内科や外科の一部から独立して、ひとつの診療科となった1890年頃に遡る。診療科長?教授の伊藤は、現在日本小児耳鼻咽喉科学会の理事長として、我が国の小児耳鼻咽喉科の発展に寄与している。
主として、人と人とのコミュニケーションのための、「聴いて」「話す」ために欠かせない聴覚器と発声器、「呼吸をして」「食べる」ための上気道の病変を扱っている。特に得意分野は耳科学分野で、中耳手術(鼓室形成術などの聴力改善手術)/耳科外側頭蓋底外科手術(聴器癌、側頭骨内腫瘍手術)や、高度難聴に対する「人工内耳手術」を積極的に行っている。聴覚の障害を改善し「全てのひと(子ども)が、聴くことができる」ようになることが、私たち小児耳鼻咽喉科医?耳科手術医の大きな目標である。
本センターは、欧米型の大学病院併設型の小児医療センターであり、大学病院併設型である利点を生かして大学病院本院との連携のもと、高度な小児医療を実践している。2021年10月からは、科長(教授)の伊藤が本院耳鼻咽喉科の診療科長を兼任しており、ますます密接な連携が可能となっている。子ども医療センターにおいて、小児耳鼻咽喉科外来は月曜日午前と水曜日午前、小児難聴外来は水曜日午後に本院外来において完全予約制で診療を行っている。科長の伊藤は本院耳鼻咽喉科の科長を兼任しているため、本館外来においても毎週水曜日に成人の耳科手術外来を行っている。また月1回「口蓋裂カンファレンス」を子ども医療センター関係各科と連携して行っている。
2)当科の得意分野
慢性中耳炎(穿孔性中耳炎、真珠腫性中耳炎)、先天性難聴(重度難聴、先天性中耳?内耳奇形)などに対する鼓室形成術やアブミ骨手術、人工内耳手術などの耳科手術や、側頭骨?外側頭蓋底腫瘍に対する耳科外側頭蓋底手術を得意分野としている。人工内耳手術は他院では行なえないような、手術困難例や重複障害例に対しても積極的に対応している。また診療科長の伊藤は、「小児滲出性中耳炎ガイドライン」作成委員長、「小児人工内耳前後の療育ガイドライン」統括委員、「小児アレルギー性鼻炎診療の手引き」副座長などとして、本邦の小児耳鼻咽喉科の診療ガイドライン作成にあたり、エビデンスに基づいた小児耳鼻咽喉科の適正治療に勤めるとともに、各種ガイドラインを日本全国?海外に向けて発信している。
?中?内耳、聴力改善手術/耳科外側頭蓋底外科
慢性穿孔性中耳炎、真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成術やアブミ骨手術など、安全?確実に病変を治すとともに、聴力改善を目指した手術治療を行っている。科長の伊藤はこれまでに3500例を超える中耳?内耳?耳科外側頭蓋底外科手術の経験をもち、より安全で確実に遂行できる中耳?側頭骨手術を実践している。特に、小児の真珠腫性中耳炎は一般に再発率が高く、手術で完全に摘出しないと何度も再発を繰り返すことがあり、高度な専門性が要求される。手術中に可能な限り良好な視野と術野を得ることで、再発率を低下させるとともに、良好な術後聴力改善成績を得ている。
?高度難聴に対する「人工内耳手術」
中?内耳奇形など人工内耳の手術困難例や重複障害のある場合にも、積極的に手術を行なっている。人工内耳によって得られる言語発達面での効果は様々であるが、それまでほとんど聞き取れなかった音が聞こえるようになり、人の言葉を聴き取れるようになってくる。人工内耳は聴力を失った方(あるいは生まれつき聴こえない子ども)にとって、最後のそして最良の医療である。
?耳科外側頭蓋底外科
側頭骨?外側頭蓋底腫瘍(成人の錐体部真珠腫なども含む先天性真珠腫進展例、聴器癌など)に対する手術を積極的に行なっている。耳科頭蓋底外科の世界的権威である、スイスのU. Fisch教授が開設した側頭骨手術ワークショップのメンバーとして貢献している。
?日帰り手術
滲出性中耳炎、穿孔性中耳炎の一部、その他の小手術に対しては、入院期間の短縮のため、一泊入院の日帰り手術を積極的に行っている。
?睡眠時無呼吸手術
マイクロデブリッターやコブレーターなどのパワーデバイスを用いた被膜内口蓋扁桃摘出術PoweredIntracapsular Tonsillectomy & Adenoidectomy(PITA)を採用して、従来法よりも術後出血率が1/10と安全で、痛みの少ない手術を行っている。小児睡眠時無呼吸症に対して術後の疼痛や出血が少ない術式であるPITAを全国に拡める活動を行っている。
?専門医等
日本耳鼻咽喉科学会専門医 | 伊藤 真人、野田 昌生 |
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日本耳科学会認定耳科手術指導医 | 伊藤 真人 |
日本小児耳鼻咽喉科学会理事長 | 伊藤 真人 |
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会理事 | 伊藤 真人 |
小児滲出性中耳炎ガイドライン委員会 前委員長 | 伊藤 真人 |
3.診療実績?クリニカルインディケーター
1)新来患者数?再来患者数?紹介割合
新来患者数 | 1,120人 |
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再来患者数 | 14,170人 |
紹介割合 | 96.3%(耳鼻咽喉科全体のデータ) |
(外来担当医師)
伊藤真人(教授):耳科学、側頭骨?頭蓋底外科、小児耳鼻咽喉科全般
野田昌生:小児耳鼻咽喉科全般 、耳科学
2)手術症例 術式別件数
件数 | |
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鼓室形成 | 90 |
鼓膜形成 | 11 |
人工内耳埋込み術 | 11 |
アブミ骨手術 | 4 |
外耳道形成術 | 10 |
顔面神経減荷術 | 4 |
乳突削開 | 35 |
鼓膜チューブ留置術 | 70 |
耳瘻孔?耳瘻管摘出術 | 9 |
頸瘻?頸嚢摘出術 | 6 |
アデノイド切除術 | 31 |
口蓋扁桃摘出術 | 70 |
気管切開術 | 35 |
合 計 | 386 |
4.2024年の目標?事業計画等
コロナウイルス感染症蔓延期には市井感染症が激減した結果、中耳炎や無呼吸症が軽症化していたが、再び顕著に増加傾向にある。今後の課題としては以下の点が挙げられる。
- 小児耳鼻咽喉科スタッフのさらなる充実
- 学生教育
3年生系統講義、5年生臨床講義、6年生総括講義を担当する。
- 臨床面での発展
次年度も、専門性と難度の高い疾患の治療を継続していくことを目標に考えている。
- 研究面での発展
基礎医学的研究の充実:基礎系研究室や他大学との共同研究を含む、研究テーマを発展させていく。
臨床医学的研究の充実:小児科?耳鼻咽喉科の共同研究の推進。感染症領域、睡眠時無呼吸症の治療、小児アレルギー性鼻炎ガイドラインなど