透析センター【アニュアルレポート】
1.スタッフ(2024年4月1日現在)
部長 | (教授) | 秋元 哲 |
---|---|---|
副部長 | (教授) | 長田 太助 |
医員 | (特命教授) | 里中 弘志(兼) |
(准教授) | 岩津 好隆(兼) | |
増田 貴博 | ||
(講師) | 吉澤 寛道(派遣中) | |
駒田 敬則(兼) | ||
菱田英里華 | ||
(学内講師) | 今井 利美 | |
(助教) | 岡 健太郎 | |
(病院助教) | 若林 奈津子 | |
大野 和寿 | ||
神永 洋彰 | ||
シニアレジデント | 6名(うち4名派遣中) |
2.診療部の特徴
入院透析センターでは、18台の血液透析機器および2台の個人用透析機器、3台の特殊血液浄化機器を用い、医師、看護師、臨床工学士からなるチーム医療による透析診療を行っている。年間新規透析導入患者数は県内導入患者総数の約2割を占め、本年も血液透析新規導入106名(前年91名)、腹膜透析新規導入3名(前年11名)の計109名を透析療法に導入した。地域拠点病院への医師派遣や近年のCOVID-19流行の影響もあったが、本年の透析導入患者数は、前年と比べて概ね遜色のない結果であった。
一方で、循環器疾患、消化器疾患、整形外科疾患などをはじめとする透析患者の合併症治療のため、周術期の透析を精力的に行っている。また、特殊血液浄化療法についても劇症肝炎、膠原病、重症潰瘍性大腸炎、自己免疫性神経?筋疾患、難治性腹水、生体肝移植患児や血液型不適合腎移植患者に対する治療を行っている。在宅透析医療としては、腹膜透析導入および外来診療も積極的に行っている。
本年も、腎不全診療の更なる充実を目指し、医師のみならず、看護師を含め多職種が腎代替療法専門指導士の資格を取得した。その結果、これまで以上に血液透析のみならず、腹膜透析、生体腎移植と多岐に渡る腎代替療法の説明、指導を行い地域関連施設へも開かれた腎代替療法選択指導を行えるようになった。
認定施設
- 日本腎臓学会研修施設
- 日本透析医学会認定施設
認定医、専門医、指導医
日本内科学会認定内科医 | 長田 太助 他13名 |
---|---|
日本内科学会総合内科専門医 | 長田 太助 他7名 |
日本内科学会総合内科指導医 | 長田 太助 他5名 |
日本腎臓学会認定腎臓専門医 | 長田 太助 他10名 |
日本腎臓学会認定指導医 | 長田 太助 他6名 |
日本透析医学会認定専門医 | 長田 太助 他11名 |
日本透析医学会認定指導医 | 秋元 哲 他2名 |
日本高血圧学会専門医 | 長田 太助 |
日本高血圧学会指導医 | 長田 太助 |
日本内分泌学会内分泌代謝専門医 | 長田 太助 |
American Society of Nephrology,Corresponding member | 長田 太助 他1名 |
International Society of Nephrology,Active member | 長田 太助 他1名 |
3.実績?クリニカルインディケーター
入院透析センターは、月?水?金曜日は午前?午後の2クール、火?木?土曜日は午前1クールで、血液透析および特殊血液浄化療法を施行している。ICU、CCU、HCU管理や感染症などで隔離管理を要する患者に対しては出張による血液透析を施行している。夜間や休日は、腎臓内科医師と臨床工学士が当宅直体制で対応し、臨時、緊急透析を施行している。
腹膜透析患者は、火?木曜日に入院透析センターにおいて定期外来診療を行い、血液透析との併用が必要な腹膜透析患者に対しても、入院透析センターにおいて定期的に外来通院での血液透析を施行している。
透析患者に関する診療カンファレンスは、医師、臨床工学士、看護師で毎日実施しており、効率的で安全なチーム医療を行うための情報共有に努めている。
血液浄化療法(1月~12月の延べ数)
入院透析センター | |
---|---|
血液(濾過)透析 | 6450 |
特殊血液浄化 | 357 |
病棟出張件数 | 220 |
計 | 7,027件 |
腹膜透析外来総数 | 414 |
---|
新規透析導入患者数(1月~12月)
血液透析 | 106 |
---|---|
腹膜透析 | 3 |
計 | 109 |
特殊血液浄化療法(1月~12月の延べ数)
単純血漿交換法 | 185 |
---|---|
二重膜濾過血漿交換法 | 39 |
血漿吸着法 | 18 |
血液吸着法 | 27 |
LDL吸着法 | 52 |
腹水濃縮 | 36 |
計 | 357 |
入院透析センターにおける血液(濾過)透析、特殊血液浄化療法の施行件数は7,027回で前年と比較して増加した。入院患者数全体では栃木及び近隣県の透析合併症患者を積極的に受け入れた結果、入院加療が必要な重症例や周術期出張透析例は依然、増加しており、今後更に需要が増えると考えられる。また、周術期や重症透析患者はHCUなどへの出張透析も積極的に行い今年も例年同様200例を超えた。これにはCOVID-19感染透析患者の加療なども含まれており、重症COVID-19感染透析患者の治療機関として、当院での責務を現在も遂行中である。入院透析患者の内訳としては、虚血性心疾患、弁膜症、不整脈などの循環器疾患、消化管出血、肝癌等の消化器?肝臓疾患、脳梗塞、脳出血等の神経疾患、骨折、膝関節、股関節症や脊柱管狭窄症などの運動器疾患や眼科疾患での入院が多く、各診療科の主治医と連携しながら、重症透析患者の加療に尽力している。また、ブラッドアクセストラブルについても近隣施設との病診連携が進み、外来での修復が可能な例は近隣施設で、困難な例や人工血管挿入術などが必要な症例は、入院の上、当院腎臓外科医によるグラフト挿入術や、腎臓内科医によるシャントPTA、長期留置型カテーテル留置などを併用して加療に当たっている。このような病診連携の効果が広く知れ渡り、本年度も栃木、埼玉、茨城は元より、一部、群馬県や福島県にも及ぶ広範囲な患者の治療受け入れが可能となっている。以前は、このような手技は放射線検査室で行っていたが、近年、より清潔な環境での施行が必要であることから手術室において施行することとしている。
医療安全の面では、これまでにも慢性腎不全の合併症加療目的で入院が必要となった透析患者を各科と密接に連携しながら加療を行ってきた。
2019年度より入院透析センターへの移動が困難であった患者は、HCUでの集約的な出張透析を行うようになってきたが、2020年度以降はCOVID-19感染透析患者に対してはER陰圧室を用いた隔離透析を新たに行うようになった。また、これまでは出張透析に関しては医師と臨床工学技士が出張に赴いていたが、2021年のCOVID-19流行期に際しては透析室看護師をERに派遣し、看護師の人的援助が行われた。COVID-19感染患者の加療に当たり医師、臨床工学技士、看護師のこのような献身的な尽力により感染透析患者の回復を得られたことを誇りに思う。
4.2024年の目標?事業計画等
- 2023年に入院透析センターで対応を要した患者数は前年と比較して増加した。特に、重症度が高い患者数や周術期出張透析数の増加など、現状のスタッフ数では、人的、物理的にも限界に近付きつつあるのが実情である。この問題は当院だけでの解決は困難で、医療連携のもと、改善を図り現在では地域中核病院や透析が可能なリハビリ施設への転院を促すことで、徐々に効果が得られてきていると思われる。2024年はCOVID-19感染症に対する取り組みの総仕上げになる時期と考えており、より人員を集約的に重症患者に割り振るため、入院透析センターの充実を図っていく予定である。また、COVID-19流行により滞った病診連携に関しても当院急性期治療からの受け皿となる関連病院への転院を来年度は活性化したいと考えている。
一方で、入院患者の高齢化に伴い、急性腎障害(acute kidney injury;AKI)の院内発症が当院でも、年々増加の一途を辿っている。AKI重症例には透析による腎補助療法が必要になるが、慢性腎臓病と異なり、腎機能の回復にも尽力する必要がある。特にCOIVD-19感染によるAKI発症数の増加により、2023年は腎臓内科病棟の医師と協力し、AKIに対する集学的治療をより一層、入院透析センターでも取り組み多くの患者をAKIから回復させることが出来た。このような実地臨床で培われた能力を、本年度は更に多くのAKI患者治療に注力し、更に充実したものとしていきたいと考えている。 - 腹膜透析については、わが国の慢性透析患者の約97%は血液透析療法を受けているが、外国との比較や、厚生労働省が推進する在宅医療普及の観点から、腹膜透析のより一層の普及が求められる。腹膜透析は、若年患者では腎移植までの橋渡し治療法として、高齢者には在宅透析の有効な手段として、大きな利点がある。その一方で、栃木県は全国でも腹膜透析普及率が低いことが知られており、普及率の向上が望まれている。当院では、新規透析導入患者に占める腹膜透析患者の割合は2021年が4.8%、2022年は10.8%であったが、2023年は2.8%となっている。現在の栃木県の腎不全医療を取り巻く状況では県北や、両毛地域では腹膜透析導入病院が点在するものの小山、下野、上三川、宇都宮を結ぶ地域では当院以外にはほとんど腹膜透析を導入していない状況である。この点からも、当院が腹膜透析導入率をアップしていくことは、在宅腹膜透析医療の普及が遅れている栃木県において、当院に課せられた重要な課題と考えている。2020年には、より多くの透析施設で腹膜透析治療が可能になり、維持腹膜透析患者の周辺透析センターへの移行も始まった。2023年度は導入件数が減ったものの、2024年はこの流れを再度活性化させ、より多くの腹膜透析患者の病診連携が出来る体制を構築していきたいと考える。そのためにも、2024年はCOVID-19感染症を鎮圧した後、医療従事者への腹膜透析教育、啓発や関連施設および訪問診療医や地域訪問看護センターとの更なる連携をはかりながら、腹膜透析の普及を牽引したいと考えている。
- 当センターでは、透析看護認定看護師を含む専門スタッフが中心となり、慢性腎臓病患者や家族を対象とした勉強会(名称:とちまめ会)を月2回定期開催している。2020年はこれに加え、腎代替療法の選択に際して個別に相談、指導を行っていく療法選択外来が開設された。また、腎代替療法専門指導士の資格取得が進み、より専門性を高めた指導が行えるよう質的な向上が成された。
COVID-19感染拡大期には、十分数の診療が行えなかったが、同感染症の5類移行後感染状況も不完全ながら落ち着きを見せ診療環境も改善していることから、2024年は腎代替療法選択外来の受講者増加を図っていきたいと考えている。また、2024年は慢性腎臓病透析予防指導管理料の算定が新たに可能となるため、多職種連携による透析予防診療チームを結成し、慢性腎臓病の重症化予防の推進も図りたいと考えている。
腎移植の推進、慢性腎臓病対策の普及?推進活動は、本年度はWebでの開催が多かったが、状況改善後は実際に市中に出向いて行政機関などとも広く協力し、今後も活動を継続して行っていく予定である。また、2016年からはこれまでの透析療法従事者研修に加え看護師特定行為研修も広く受け入れを開始しており、本学のみならず地域医療における透析療法の教育に尽力している。昨年度はコロナ禍の影響で、この研修を行うことが出来なかったが、本年度はワクチン接種や十分な感染対策のもと、他県からの研修希望者を含め、教育実習の受け入れを再開し地域医療に貢献できた。